ウフィツィ美術館とは?

ウフィツィ美術館(Galleria degli Uffizi)」とは、ルネサンス期の傑作絵画を多く所蔵している、フィレンツェの超有名な美術館です。

Uffiziの読み方は?

イタリア語の発音では「ウッフィツィ」の方が近いですが、日本では「ウフィツィ美術館」と呼ばれることが多いので、このページでも「ウフィツィ」と表記します。

ウフィツィ美術館の展示物は、ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』『』をはじめ、「世界で最も有名な絵のひとつ」と呼べる傑作がそろっています。

フィレンツェ観光で欠かせない名所のひとつです。

ウフィツィ美術館に5回入ったことがあるルネサンスマニアの私が、必見作品や予約情報など「ウフィツィ美術館のすべて」を熱く語ります!

ウフィツィ美術館の有名作品ベスト5!

名画ぞろいのウフィツィ美術館ですが、特に有名な作品を5つ挙げると…

  • ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』
  • ボッティチェリ『春』
  • ラファエロ『ひわの聖母』
  • レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』
  • カラヴァッジョ『バッカス』

この5作品ですかね!

ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』
ボッティチェリ『春』
ラファエロ『ひわの聖母』
レオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」
レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』
カラヴァッジョ『バッカス』

ウフィツィ美術館鑑賞の所要時間の目安は?

ウフィツィ美術館の鑑賞にどのくらい時間が必要かですが、もちろん、鑑賞の速度や、興味・好みなどによって変わってきます。

有名作品を中心にザッと鑑賞するなら1時間半~2時間

平均的な所要時間としては2時間半~3時間

ひとつひとつの作品をていねいに見るなら、3時間以上ほしいところです。

ウフィツィ美術館見学の所有時間目安

  • かけ足で見る→1時間半~2時間
  • 普通に見る→2時間半~2時間
  • じっくり見る→3時間以上

必見作品を順路に沿って紹介!

ウフィツィ美術館は、作品がザックリと年代順に並べられています

順路通りに進むと、西洋美術史の流れを体感できて楽しいですよ!

当サイトでも必見作品を、順路に沿って紹介していきます!

上階(3階)の必見作品

ウフィツィ美術館の展示は上階(3階)と下階に(2階)分かれていて、上階→下階の順に見学します。

上階はルネサンス前夜であるゴシック期の絵画から、初期ルネサンス絵画、盛期ルネサンス期の超絶有名絵画から、ルネサンス後期までの展示…つまりルネサンス祭です!!!

ルネサンス前夜の作品(順路A1~A7)

ジョット『荘厳の聖母』(A4)
Giotto, 1267 Around-1337 - Maestà - Google Art Project
ジョット『荘厳の聖母』1300~1305年 
Attribution:Giotto , Public domain, via Wikimedia Commons

中世絵画の部屋(A3)の次に、廊下から入る部屋(A4)で待ち構えているのが、ジョット作品『荘厳の聖母』です。

ジョットは、平面的な宗教画が中心だった絵画の世界に立体感を取り入れて革新を起こしたとされます。

現代人が見るとあまり立体的に見えない絵かもしれませんが、聖母マリアの膝のあたりや、台座が立体的に描かれ、この絵が描かれた14世紀初頭には画期的な描き方だったそうです。

あとジョットといえば目力。聖母マリアと幼子イエスの凛としたまなざしが印象的です。

ジョットの新しい画風は大流行し、「ジョッティスキ」と呼ばれるジョット風の絵を描く画家がたくさん登場します。ウフィツィ美術館にも、ジョットの絵とよく似た絵が多く展示されています。

シモーネ・マルティーニ『受胎告知』(A5)
Simone Martini and Lippo Memmi - The Annunciation and Two Saints - WGA15010
シモーネ・マルティーニ『受胎告知』1333年
Attribution:Simone Martini , Public domain, via Wikimedia Commons

ジョットの次の部屋(A5)では、シモーネ・マルティーニの『受胎告知』で足を止めましょう。

シモーネ・マルティーニはシエナ派の代表画家。フィレンツェのライバルだったシエナでは、フィレンツェ発祥のルネサンス画が流行せず、中世風の宗教画が洗練されていったと言われています。

シモーネ・マルティーニの『受胎告知』は聖母のポーズや天使のたたずまいが優美で、人気の高い作品です。

また、受胎を告げる大天使ガブリエルは、本来なら純潔の象徴・百合の花を持つ姿で描かれますが、ここではオリーブを持っています。百合はフィレンツェの象徴であるため避けられた…なんて説もあります。

初期ルネサンス(順路A8~A10)

マザッチョ『聖母子と聖アンナ』(A8)
Masolino 008
マザッチョ『聖母子と聖アンナ』1424年頃
Attribution:Masolino da Panicale , Public domain, via Wikimedia Commons

ルネサンスの下地を用意したのはジョットですが、絵画部門で「ルネサンスの扉を開けた」と言われるのがマザッチョです。

聖母子と聖アンナ』は共作で、マザッチョが手掛けたのは聖母子の後ろに立つ聖アンナ(聖母マリアの母)。現実感のない聖母子とくらべて、リアルに存在しそうなシニア女性ですよね。

マザッチョは夭逝しますが、彼の登場後、フィレンツェ絵画はルネサンスへの階段を一気に駆け上がっていきます。

フラ・アンジェリコ『聖母戴冠』(A8)
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フラ・アンジェリコ『聖母戴冠』1435年頃
Attribution:Fra Angelico , Public domain, via Wikimedia Commons

このあたりからはルネサンスの人気画家目白押し!まずはフラ・アンジェリコ聖母戴冠』です。

修道士だったフラ・アンジェリコの作品は、ルネサンス的な空間感覚、人物表現がありながら、現実世界と神の世界にはまだしっかりとした区別があるように感じます。

フラ・アンジェリコは「天使のような人物だった」と言われ、画家の内面がそのまま表れたようなやさしい画風で、ファンが多いルネサンス画家のひとりです。

フラ・アンジェリコの傑作を鑑賞したい方にはサン・マルコ修道院がおすすめ!

フィリッポ・リッピ『聖母子と二人の天使』(A9)
フィリッポ・リッピ『聖母子と二人の天使』1465年頃

ここまで来ると、もうルネサンス満開に近い!フィリッポ・リッピ聖母子と二人の天使』。

聖母はめっちゃ美人さんですが、妻がモデル。手前の天使は、息子(画家となるフィリッピーノ・リッピ)がモデル。遠い神の世界ではなく、身近な世界を描いている感じがしますね。

フィリッポ・リッピはフラ・アンジェリコとだいたい同時期の画家ですが、リッピは素行(特に女性関係)に問題があった修道士と伝えられています。

しかしリッピの描く女性は美しさと儚さをそなえた魅力があり…女性好きだからこその筆力なのかもしれませんね。

リッピはボッティチェリの先生です。リッピの描く儚い女性の美しさは、ボッティチェリに受け継がれていますね。

ピエロ・デッラ・フランチェスカ『ウルビーノ公夫妻の肖像』(A9)
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ピエロ・デッラ・フランチェスカ『ウルビーノ公夫妻の肖像』1465~72年頃
Attribution:Piero della Francesca , Public domain, via Wikimedia Commons

何だか不思議な雰囲気の対の肖像画。ピエロ・デッラ・フランチェスカウルビーノ公夫妻の肖像』です。

この時期は肖像画を横顔で描く習慣がありました(古代ローマのメダルを模したとか)。

ピエロ・デッラ・フランチェスカは数学者でもあり、遠近法に厳密。知的で独特の雰囲気がある画風が特徴です。

この作品では、人物の向こうに広がる風景に遠近法がよく表れています。

この作品は後ろ側に回れるように部屋の真ん中に展示されていて、裏側にも絵が描かれています。後ろに回っての鑑賞もお忘れなく!

ボッティチェリの間(A11~12)

ウフィツィ美術館は、世界最大のボッティチェリコレクションを誇ります

ウフィツィ美術館は所蔵作品すべてを展示していない(たぶんスペース不足)ため、正確な数字はわかりませんが、私が確実に所蔵を確認できているボッティチェリ作品は12です。

そのほとんどがA11~12に集められていて、私はこの部屋を勝手に「ボッティチェリの間」と呼んでおります。

ここでは12作品のうち6作品をご紹介します!

『ヴィーナスの誕生』
ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』1484年頃

説明不要なほどの大傑作。ボッティチェリヴィーナスの誕生』。

海の泡から生まれたヴィーナスが、西風ゼピュロス(左側の男性)によって運ばれ、季節の女神ホーラ(右側の女性)に服を着せられた…というギリシャ神話に沿って描かれた絵なのですが…言葉を失う奇跡のような絵画です。

左側で西風と一緒に飛んでいるのは、彼の妻である春の女神フローラ。二人の間に飛んでいる花は、フローラが撒いているものと思われます。

説明不要の傑作ですね。どことなく「はかなさ」が漂う美しさを、ぜひ堪能してください!

色彩が鮮やかに見えない…

『ヴィーナスの誕生』『春』の二作品は、防弾ガラスに入れられているため、あまり色が鮮やかに見えません。そのため「写真で見たほうが良かった…」という感じる方がいるかも。ボッティチェリ作品の色合いは、他のボッティチェリ作品で楽しみましょう!

『春』
ボッティチェリ『春』1482年頃

ルネサンスと言えばこの絵を思い浮かべる方も多いでしょう。『』…イタリア語の『Primavera(プリマヴェーラ)』という呼び方も結構知られていますね。

登場人物が多いので、それぞれ何者なのかを確認してみましょう。

『春』の解釈はさまざまで、正解は誰にもわかりません。ここでは代表的な説の中で、私が「そうかもな~」と納得できる解釈をご紹介します。

まず、真ん中に鎮座しているのは、愛の女神アフロディーテ。主役の位置に立って画面全体を支配し、この絵の主題が「愛」であることを表しています。

右端は、精霊クローリス西風ゼフィロスに捕まった瞬間で、口から花を吹き出しています。

クローリスはゼフィロスと結婚して春の女神フローラに変身し、大地に花をまき散らします。クローリスの時には無地だったドレスにも花が咲いています。

フローラは妊婦さんだと指摘する人もいますね。

左側で三人で踊っている美女たちは「」「」「純潔」の三美神

アフロディーテの真上にいる恋の神キューピッドは、「恋は盲目」を表す目隠しをして、三美神のうち「純潔」に恋の矢を向けています。

キューピッドに狙われた「純潔」は、左端で冬雲を追い払っている伝令神ヘルメスに、恋をしてしまったような視線を投げています。

三美神のうち「美」は、「愛」の手を高く挙げ「純潔」の手を下げ、恋愛心は貞操心を上回ることを暗示しているという説も。

いろいろな解釈がある『春』ですが、理屈抜きで鑑賞しても魅力的な作品です。ぜひ自分なりの楽しみ方を!

『パラスとケンタウロス』
ボッティチェリ『パラスとケンタウロス』1480~1485年頃

ウフィツィ美術館が誇る「ボッティチェリ三大ギリシャ神話絵画」は、『ヴィーナスの誕生』『春』『パラスとケンタウロス』です。

パラスとケンタウロス』もなかなかの作品なのですが、他の2つが有名すぎて、それほど知られていない印象ですね。

智恵と戦の女神パラス(アテナ)が、野生・欲望の象徴であるケンタウロスを服従させている図です。

一般的には「知性の獣欲に対する勝利」と解釈されますが、「メディチ家(もしくはフィレンツェ)の勝利」を暗示しているという説もよく知られています。

『マニフィカートの聖母』
ボッティチェリ『マニフィカートの聖母』1481年

マニフィカートの聖母』は、トンド(円形)の絵画です。

この作品は、聖母マリアが「マニフィカート」と呼ばれる聖歌を記しているため、『マニフィカートの聖母』と呼ばれています。

聖母マリアは左手にはキリストの受難の象徴であるザクロを持っていて、母を見上げている幼子イエスと目が合っていないのが切ないです。

我が子の運命を予感しているみたい…

聖母子を取り囲む美少年たちは翼がありませんが天使です。人物の表情や配置が絶妙な作品だな~といつも見入ってしまいます。

『受胎告知』
ボッティチェリ『受胎告知』1489年

大天使ガブリエルが聖母マリアに神の子を身ごもったことを伝えに来る『受胎告知』。

大天使ガブリエルが床に着地した「トン」という音が聞こえそうな、ドラマチックな絵です。

聖母は驚きのあまり身体をのけぞらせていますが、表情には覚悟が見られます。

躍動感と優美さを兼ね備えた作品で私は大好きなのですが、ボッティチェリと兄弟弟子の関係にあったレオナルド・ダ・ヴィンチは「天使が荒々しい、聖母がビビり過ぎ」…という主旨で酷評してます。

ウフィツィ美術館にはレオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』も展示されているので(後で紹介します)、ぜひ見くらべてください。

私は断然ボッティチェリ派!

東方三博士の礼拝
ボッティチェリ『東方三博士の礼拝』1475~1476年頃

『東方三博士の礼拝』は、主題としては「東方の三博士(占星術師)が星に導かれてイエスの誕生を拝みにくる」という聖書のエピソードを描いています。

こちらのボッティチェリ作品は、絵の中にメディチ家の人物や、自画像が描きこまれていることでよく知られています。

メディチ家のメンバーは、コジモ、コジモの息子のピエロとジョヴァンニ、孫のロレンツォとジュリアーノ…という三世代が描きこまれています。

ロレンツォ豪華王は左端の人物というのが定説ですが、位置的に弟のジュリアーノと対になっている人物がロレンツォだという説もあります。

ジョヴァンニとジュリアーノはめっちゃイケメン。美化はされているそうですが、パッツィ家の陰謀で夭逝したジュリアーノは実際にイケメンだったと言われていますね。

トリブーナ(A16)

「ボッティチェリの間」を出たら、順路通り進み、途中にある赤い壁に囲まれた部屋をのぞいてみましょう。

ここは「トリブーナ(tribuna)」と呼ばれます。

もともとウフィツィ美術館は行政庁舎だった建物で、ほとんどの部屋はシンプルですが、芸術大好きなメディチ家のフランチェスコ1世が、コレクションを飾るために建築家ブオンタレンティにこの美しい部屋を作らせました。

ウフィツィ美術館発祥の部屋というわけですね!

18世紀の「トリブーナ」をヨハン・ゾファニーというドイツ生まれの画家が絵に描いて残しています。

ヨハン・ゾファニー『ウフィツィ美術館のグランドスタンド』
※この絵画はウフィツィ美術館ではなく英国のロイヤルコレクション所蔵です

現在はこの絵のように室内に入ることはできず、外から鑑賞する形ですが、この絵の右端に描かれている彫像『メディチ家のヴィーナス』は、現在でもトリブーナに展示されています。

フィレンツェ以外の前期ルネサンス作品

トリブーナから突き当りまでは、シエナ、ヴェネツィア等のフィレンツェ以外の前期ルネサンス絵画が続きます。

ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠ティツィアーノの作品は下の階にあり、このエリアは有名作品が少なく、サラッと通る観光客が多いです。

このエリアでちょっと面白い絵画といえば、ヴェネツィア派ジョヴァンニ・ベッリーニの『聖なる寓意

Giovanni Bellini - Allegoria sacra
ジョヴァンニ・ベッリーニ『聖なる寓意』1490~1500年頃
Attribution:Giovanni Bellini , Public domain, via Wikimedia Commons

何やら不思議な絵ですが…いったい何を描いた絵なのか、今でも議論がやまない作品なのだそうです。

前景の何をしているのかわからないバラバラな人たちはミステリアスですが、後ろの風景は実に色使いが美しいです。

盛期ルネサンス(A25~A42)

ウフィツィ美術館はカタカナの「コ」の字を平たくした形ですが、上階の「コ」の下側に展示している絵画のジャンルは、すべて「盛期ルネサンス」。

ここは「ボッティチェリの間」と並ぶ人気エリアで、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロのルネサンス三巨匠作品があります

レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』(A35)
レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』1472年

レオナルド・ダ・ヴィンチは着色までされて「完成品」といえる作品が非常に少ない…真筆かどうかの議論もあるため正確な数は出せませんが、世界中に10~15点しかありません。

そのうちのひとつが、ここウフィツィ美術館にある『受胎告知』。20代の若きレオナルドが描いた初期作品とされます。

個人的にこの絵は、他のレオナルド作品とは雰囲気がずいぶん違うな…と感じます。

人物の動きや全体的な配置に、レオナルド・ダ・ヴィンチ的な「やわらかさ」が無いような…

実はこの作品は、長らくギルランダイオ作と考えられていました。現在でも、この作品は複数の画家によって共作され、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたのは一部分だという説もあります。

ヴェロッキオ『キリストの洗礼』(A35)
ヴェロッキオ『キリストの洗礼』1470~1475年頃

レオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』と同じ部屋に、レオナルドの師匠・ヴェロッキオの『キリストの洗礼』があります。

このヴェロッキオ先生の絵を弟子時代のレオナルドが手伝い、レオナルドが左端の天使とその背後の風景を手がけたと言われています。

その出来栄えがあまりにも素晴らしく、ショックを受けたヴェロッキオ先生は絵を描くのをやめてしまった…というエピソードがヴァザーリの「芸術家列伝」に残されています。

ちなみに右側の天使は、同じくヴェロッキオの弟子だったボッティチェリが描いたという説もあるんですよ!

ミケランジェロ『聖家族』(A38)
ミケランジェロ「聖家族」
ミケランジェロ『聖家族』1504年頃

ウフィツィ美術館には、非常に珍しいものがあります。ぶっちゃけ「ミケランジェロの小さな絵」です。

MEMO

主に彫刻家として活動したミケランジェロの絵画作品は少なく、あの有名なローマのシスティーナ礼拝堂の天井画も、教皇にしつこくせがまれてしぶしぶ描いたと言われています。

システィーナ礼拝堂には巨大な壁画を残しているミケランジェロですが、額縁に入るサイズの絵は希少で、完成品は世界でたったひとつ!それがここウフィツィ美術館にある『聖家族』(別名トンド・ドーニ)!

筋肉質で複雑なポーズの聖母はミケランジェロならでは、ですね。

背景が奇妙ですが、背後の裸体グループは古代ローマ・ギリシャ、その手前右端にいるのは洗礼者ヨハネで旧約の世界を象徴、そして最前面の聖家族が新約聖書の世界を表している…という解釈があるそうです。

ラファエロ『ひわの聖母』(A38)
ラファエロ『ひわの聖母』1505年頃

ミケランジェロと同じ部屋にはラファエロ作品が数点あります。その中でも大人気なのはこちら『ひわの聖母』。

聖母の手前の洗礼者ヨハネ(左)と幼子イエス(右)が、イエスの受難を象徴する小鳥「ひわ」を手にしています。

それにしても、ラファエロの描く聖母の慈愛に満ちた表情といったら…絵の前にいるだけで癒される気がします。

ラファエロ『教皇レオ10世の肖像』(A38)
ラファエロ『教皇レオ10世の肖像』1518年頃

ラファエロといえば「美女や天使を描く画家」というイメージがありますが、こんなイカツイおじさまの絵も描いています。

教皇レオ10世の肖像』…メディチ家出身の教皇です。

現代の柔和な聖職者であるローマ教皇とは違い、政治的野心に満ちている表情…よくこんなに人物の内面まで見えるような絵が描けるよなあ…。

また、衣服や手のあたりなどは、絵ではなくまるで写真みたい。ラファエロのすさまじい筆力が伝わってくる絵です。

下階(2階)の必見作品

上階はルネサンス祭りなのに対し、下階はそれに続く後期ルネサンス、マニエリスム、バロック美術…と美術史の流れが続くエリアと、自画像コレクションコンティーニ・ボナコッシ・コレクションの3つのセクションに分かれています。

下階の順路は、上階のカフェ近くの階段を降りてコンティーニ・ボナコッシ・コレクション→自画像コレクション→美術史の流れエリア…となります。

コンティーニ・ボナコッシ・コレクション(B1~B8)

上階からカフェ近くの階段を降りると、左折したら自画像コレクション→美術史の流れと進みます。

右折すると、政治家で美術収集家でもあったコンティーニ・ボナコッシ伯爵から寄贈されたコレクションのコーナーがあり、ウッチェッロ、ベッリーニの絵画、ベルニーニの彫刻などが展示されています。

Martrydom of Saint Lawrence by Bernini
ベルニーニ『聖ロレンツォの殉教』1614~15年
Attribution:Gian Lorenzo Bernini, Public domain, via Wikimedia Commons

このエリアはスキップして先に進むこともできますが、バロック彫刻の巨匠ベルニーニの作品がフィレンツェにあるのは珍しいです。時間のある方は鑑賞をおすすめします!

自画像コレクション(C1~C12)

自画像コレクションは最近新しくできた展示室で、ヴァザーリの回廊内にあった自画像ギャラリーを、ウフィツィ美術館内に移動させています。

ヴァザーリの回廊は通常非公開なので、ウフィツィ美術館で作品を見られるようになって嬉しい!…そのせいでウフィツィ美術館は値上げ(しかも爆上げ)しちゃったけど。

ウフィツィ美術館はすさまじい数の自画像を所蔵していて、レンブラント、ルーベンスから、現代アートの草間彌生の自画像まで所持しています。

そのすべての作品を展示しきれてはいないそうで、入れ替え展示になっているそうです。

ラファエロ『自画像』
Raffaello Sanzio
ラファエロ『自画像』1506年
Attribution:Raphael , Public domain, via Wikimedia Commons

自画像コレクションの最大の目玉作品は、ラファエロの自画像でしょう。

ラファエロ…好みは様々だとは思いますが、現代でも女性受けがよさそうな、優しい顔のイケメンですよね。

「モデルも画家の腕も良いんだよ!」というセリフをつけたくなるような、微妙なドヤ顔もよいと思います。

エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン『自画像』
Lebrun, Self-portrait
エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン『自画像』1790年
Attribution:Élisabeth Louise Vigée Le Brun , Public domain, via Wikimedia Commons

近代までは圧倒的に画家は男性が多いため、どうしても自画像コーナーは男性の絵ばっかりになるのですが、ひときわ目を惹くのがコチラ。

カワイイ!ラファエロと同じく、モデルも画家の腕も良いですね!

こちらは、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランという18世紀のフランスの女性画家。マリー・アントワネットの肖像画を描いたことで知られています。

この自画像で描いているのも(絵の中に絵がある面白い構図)、マリー・アントワネットの肖像画だとか。

なぜこの絵がイタリアにあるのかというと、ルブランはマリー・アントワネットのお気に入りだったため、フランス革命後にイタリアに亡命したのだそうです。

16世紀作品(D1~D28)

Dがつく部屋からは、上の階の初期ルネサンス→盛期ルネサンスの流れに続く、時系列に沿って展示されている部屋になります。

D1~D28は16世紀作品で、後期ルネサンス、マニエリスム期あたりの絵画が続きます。

パルミジャーノ『長い首の聖母』(D4)
パルミジャーノ『長い首の聖母』1535年頃

タイトル通り、聖母の首や指の長さが気になる『長い首の聖母』。パルマ出身の画家パルミジャーノの作品です。

自然な人体表現を追求するルネサンスの時代が終わり、やや不自然な人体の誇張表現が見られるマニエリスム期の到来を告げる作品として有名です。

聖母が抱いている幼子キリストはまるで人形のようにダランとしていて、何だか不安な気持ちになります。

この不安定な雰囲気も、マニエリスム期の作品の特徴のひとつです。

アンドレア・デル・サルト『ハルピュイアの聖母』
アンドレア・デル・サルト『ハルピュイアの聖母』1517年

アンドレア・デル・サルトの代表作『ハルピュイアの聖母』。

聖母が踏みつけている台座に彫られている怪物が「ハルピュイア」で、聖母が悪を抑えている構図と解釈されています。

聖母はアンドレア・デル・サルトの妻ルクレツィアがモデルです。アンドレア・デル・サルトの弟子だったヴァザーリは悪妻と書き残していますが、真実やいかに。

聖母も美人ですが、左の聖フランチェスコ、右の福音書記ヨハネもイケメン。しかもちょっと聖母に顔が似ている気が…。

ティツィアーノ『ウルビーノのヴィーナス』(D23)
Tizian 102
ティツィアーノ『ウルビーノのヴィーナス』1534年
Attribution:Titian , Public domain, via Wikimedia Commons

ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノの問題作『ウルビーノのヴィーナス』は、このセクションの目玉作品でしょう。

ボッティチェリが『ヴィーナスの誕生』で描いたヴィーナスとくらべて、ヌードを恥じらうでもなく、むしろ挑発的な表情を浮かべているヴィーナス。

足元には貞操や信心深さの象徴である犬が眠っている…つまり貞操にヴィーナス的な愛・美が勝利していると解釈されます。

まだキリスト教的倫理観が強かった16世紀に思い切った作品を描いたものだな…と思いますが、タテマエは「ギリシャ神話のヴィーナスを描いた神話画です」となっているためセーフだったようです。

MEMO

約300年後にマネが『ウルビーノのヴィーナス』と構図そっくりの作品『オランピア』を発表しますが、「神話画でもない女性のヌードを描いたけしからん作品」と大炎上しました。

17世紀作品(E1~E8)

さてゴールが近づいてまいりました。

最後のセクションは17世紀、バロック期の作品展示です。

イタリアのバロックといえばカラヴァッジョ。ウフィツィ美術館の鑑賞はカラヴァッジョで〆となります。

カラヴァッジョ『イサクの犠牲』(E2)
カラヴァッジョ『イサクの犠牲』1592~1604年

旧約聖書のストーリーで、神への忠誠心を試されたアブラハムが、自身が年老いてから生まれた待望の息子イサクを神に捧げようとし、天使が「ごめん!試してただけだから!」と止めに来た場面。

イサクの恐怖に満ちた表情や、光と闇のコントラストがドラマチックな作品です。

イサクの右側にいる羊はこの後イサクの代わりに神に捧げられます。かわいそうですが、アブラハムを見上げている落ち着いた瞳が印象的。すごい画力。

カラヴァッジョ『メドゥーサ』(E4)
カラヴァッジョ『メドゥーサ』1592~1600年

ギリシャ神話で英雄ペルセウスは、「目を見たら石になる」という怪物メドゥーサを倒すため、自身の盾にメドゥーサを写して首を切り落とします。

そのペルセウスの盾に写ったメドゥーサの首を描いた作品。

残酷な絵なのですが、「やられた!」とでも言っていそうなメドゥーサの表情はどこかユーモラス。

ユーモラスな残酷さを得意とするカラヴァッジョならではの作品です。

カラヴァッジョ『バッカス』(E5)

ギリシャ神話の葡萄酒の神バッカス(ディオニューソス)。

バッカスは絵画や彫刻で美男子として表現されることが多いのですが、カラヴァッジョのバッカスはふくよかな酔っぱらいという印象ですね。

バッカスの手前に置かれた果物は傷んでいるものもあり、「みずみずしい若さはいつか滅びる」というヴァニタス画を表していると言われます。

ですが、この絵はそういう堅苦しいメッセージよりは、「いつか滅びるけど今を楽しもうぜ!」という楽天的、享楽的な雰囲気を受けます。

順路の最後の方に『バッカス』があることで、ウフィツィ美術館の鑑賞はいつも楽しい気分で終わる私です!

ウフィツィ美術館おすすめの回り方は?

ウフィツィ美術館は構造がシンプルで、基本的には上階(3階)→下階(2階)と順路通りに回ればOKです。

ウフィツィ美術館の公式サイトは、3つの見学コースを紹介しています。

  • 全ての展示室を回るコース(COMPLETE)
  • 下階の肖像画コレクションエリアを飛ばすコース(CLASSIC)
  • 上階のみを見学するコース(SHORT)

コンプリートコース

コンプリートコースは、3階(現地では2階表記)の展示室を見終わった後、カフェの近くにある奥の階段を下ります。

2階(現地では1階表記)に下りたら、左折して「コンティーニ・ボナコッシ・コレクション」を見学した後、Uターンして、後は順路通りに進みます。

「コンティーニ・ボナコッシ・コレクション」のエリアには行かず、階段を下りた後右折して、「肖像画コレクション」から見学を始めることもできます。

クラシックコース

クラシックコースは、3階の展示を見終わったらラファエロの絵がある部屋まで戻り、近くにある階段を下ります。

時間がない場合は、ラファエロ・ミケランジェロの部屋を見た後、その先には進まずに階段を下りるという選択肢もあります。

2階に降りたら、D1から鑑賞を始めます。その左側にある「肖像画コレクション」「コンティーニ・ボナコッシ・コレクション」のエリアは省略します。

このコースが「クラシック」と呼ばれるのは、「肖像画コレクション」ができる前からウフィツィ美術館に展示されている作品をたどるコースだからだね!

ショートコース

ショートコースは3階の見学が終わったら、カフェ近くの奥の階段を2階分下りて1階まで行きます(現地表記は0階)。

クロークに預けた荷物や、返却するオーディオガイドがない場合は、階段をおりてすぐの場所にある出口から退館します。

荷物やオーディオガイドがある場合は、最初の入口に戻って手続きをし、入り口の近くにある出口から出ます。

ウフィツィ美術館の休憩所・カフェ

展示室の人混みの中にずっといるのは想像より疲れます。

休みながらでも時間をかけて見たいという場合は、ウフィツィ美術館の3階部分(主要な展示物のある階)に長廊下があり、そこから各展示室に入れるようになっているので、一度長廊下に出て椅子に座って休憩しましょう。

長廊下からはどの展示室にも入れますので、一度通った順路にも戻ることができます。

また、ウフィツィ美術館には、目の前のヴェッキオ宮や、ドゥオモ、ジョットの鐘楼などが拝めるテラスカフェがあります。

フィレンツェ ウフィツィ美術館

このカフェで休憩を取りながら、ゆっくりと美術鑑賞するのもおすすめです。

お値段はもちろん街角のバールよりは高いですが、目玉が飛び出すほどのぼったくり価格ではなかったと記憶してますし、コーヒーやお菓子の味もそれほど悪くありません。

3階部分の奥の方にあります。

ウフィツィ美術館の予約について

ウフィツィ美術館の予約について

  • 予約は本当に必要か?
  • 予約してある場合の入場方法
  • 予約の取り方
  • 当日予約はできる?

…などの情報をまとめてみました!

ウフィツィ美術館は予約した方がよい!

ウフィツィ美術館の予約料は€4(500~600円)。果たしてウフィツィ美術館は予約すべきか?

500円強の予約料金を惜しんで時間を取られるよりは、予約してフィレンツェ観光する時間を少しでも確保することをおすすめします

私は計5回のウフィツィ美術館入館で、2回は予約入場、3回は予約なしで入りました。

予約なしで入った3回は、すべて2~3月の夕方5時以降の入館で、待ち時間は10~20分でした。

夕方の訪問で注意したいこと

ウフィツィ美術館は18時30分閉館ですが、30分前くらいからは閉まってしまう部屋があります。また、最終入場時間は17時30分です。夕方に訪問する場合は頭に入れておきましょう。

私の経験から考えると、オフシーズンの夕方以降にウフィツィ美術館を訪問する予定であれば予約は必須ではなさそうが、ウフィツィ美術館の行列は以前よりスサマジイとのこと。

特に、以下に該当する場合は予約を強くお勧めします!

こんな場合は予約しよう!

  • 夏季・ミドルシーズン(3月~10月)にウフィツィ美術館を訪問する
  • 冬季(11~3月)でも午前中~午後の早い時間に入館したい
  • フィレンツェで過ごせる時間が少ない
  • 長い行列には絶対に並びたくない!

ウフィツィ美術館の予約を取る方法は?

ウフィツィ美術館を予約する方法は大きく3通りです。

  • 公式サイト経由でオンライン予約
  • 電話
  • 現地で直接予約
  • フィレンツェで宿泊するホテルに依頼
  • 旅行会社に依頼

以前は、4の「ホテルに依頼」が一番簡単でおすすめしていました。

現在は、オンライン予約すると入場が楽になるというメリットがあるため(後で解説します)、オンライン予約がおすすめです。

オンライン予約するには、公式サイトからのチケット案内ページからB-ticketというチケット予約サイトへ行きます。

B-ticketでは英語での操作が可能です。

イタリア語表示になってしまっている場合は、下の方に「English」への切り替えボタンがあります。

予約した場合のウフィツィ美術館の入場の仕方

予約方法によって入場方法が違う!

  • オンライン予約してEチケットを持っている人→直接入口へ
  • 電話予約などでEチケットを持っていない人→3番窓口へ

2024年5月から、オンライン予約した人の入場方法が簡単になりました。

ウフィツィ美術館の入口(①②どちらでもOK)へ直接行き、予約後にメールで送られてくるEチケットを読み込ませるだけで入場できます

一方、電話予約などでEチケットを受け取っていない場合は、今までどおり紙のチケットを受け取る必要があります。

Eチケットを持っていない人は予約番号を控えて行き、3番窓口でチケットを引き換えてから入場します。

3番窓口は入口とは反対側の建物にあります。3番窓口からは入場できないので、チケットを受け取ったら入口①②から入場します。

入口①②、予約券引き取りの窓口③、当日券売場の位置関係はこんな感じだよ!

当日券売り場の長ーい行列(予約していない人たちの列)に並んでしまわないように気を付けて下さい。

よくわからない場合は、Eチケットや予約番号を見せて、入り口の係員に身振りで訴えれば誘導してもらえます(それほどわかりにくくないので心配無用!)。

予約しなかった場合はどうする?

ウフィツィ美術館

「ウフィツィ美術館は予約した方がよい」と繰り返し書いておりますが…

そんなこと言われても予約せずにフィレンツェに来ちゃったよ!

…という場合はどうするか。

そんな場合は3つの方法をおすすめします!

  • 開館前に並ぶ。夏場は開館の1時間以上前(なるべく早く)、冬季でも30分前には並ぶ
  • 午後4時半以降に並ぶ。滞在時間が短くなるので効率的に回れるよう予習必須!
  • 火曜日の夜間開館時間(18時30分~22時)に行く

②の「午後4時半以降」は、本当に混んでいる夏場はちょっとリスキーかも。その時点でも行列が進んでいなければ、最終入場時間17:30に間に合わない可能性があります。

私だったら③の火曜日の夜間開館へ行きますね!特に20時以降とかならめっちゃ空いているのではないでしょうか。

夜間開館の注意点

火曜日の夜間開館は、最終入場は20時30分(午後8時半)であることに注意。また、女性一人旅の場合は宿泊しているホテルの場所も考慮しましょう。駅近く宿泊の場合は、ちょっと遠い&治安が少し悪いので、あまり遅い時間に帰るのはおすすめしません。

ウフィツィ美術館のあれこれミニ情報

フィレンツェ ウフィツィ美術館
  • 以前は禁止だった館内展示物の写真撮影がOKになりました。ただしフラッシュ撮影はNGだそうです。
  • 展示物はだいたい年代順に並んでいるので、順路通りたどるとイタリア絵画の歴史を辿れます。意識しながら鑑賞すると面白いかもです。
  • ウフィツィ美術館はよく改装を行っていて、いつ行っても展示場所が変更になっている作品があります。ガイドブックなどの館内図と異なる可能性もありますので、お目当て作品が見つからない場合は係員に尋ねましょう。「Excuse me+ガイドブックの絵を指さす」だけで通じるので大丈夫!
  • 入口前にトイレがあります。私はここに忘れ物をして、入場後に気づいて取りに戻らせてもらいました。空いている時間だったので大丈夫でしたが、混雑時は戻れない可能性もあるので気を付けて下さい。トイレは入場した後でも館内にあります
  • ウフィツィ美術館は、常設作品以外にもたくさんの作品を所蔵しています。実は、展示しているのは所蔵している作品の半分程度だそうです。日本で行われたウフィツィ美術館展に出展していた作品が、いざウフィツィ美術館に行ってみたら見つからない!ということもよくあります。
  • パラティーナ美術館、ボーボリ庭園とのお得な共通券があります。5日間有効です。

ウフィツィ美術館

  • イタリア語:Galleria degli Uffizi (ガッレリア・デッリ・ウッフィツィ)
  • 公式サイト:https://www.uffizi.it/